ロンドンで子育てをしていて驚かされたのは、イギリスでは大人の世界と子どもの世界がはっきりと区別されているということです。
勿論大人と子どもが共有できる場もありますが、大人の場に子どもが入ることは許されません。また子どものための場では、大人が子どもの安全を守るということが社会の約束となっています。
大人と子どもそれぞれの領域区分は、子どもが小さい頃から家庭の中で始まります。子どもが生まれて数ヶ月の頃から(家庭によっては出産後退院直後からかもしれません)、子どもと親の寝室は別々です。
子どもは子ども部屋のベビー・ベッドで、両親はメイン・ベッドルームで休みます。私は子どもと一緒の部屋に、夫は1人で別の部屋にという日本風の生活をしていましたが、イギリス人の友人にそれを話したところ、とてもびっくりされました。夫婦が別々に寝る、親と子どもが一緒に寝る、ということが信じられないようでした。
外食の場合にも、子どもが大人と同伴してよいレストランというのは限られています。ファースト・フード店では子どもが親と一緒に食事をする光景はよくみられますが、子どもがテーブル・マナーを身につけ、泣いたり店の中を走り回ったりすることがなくなるまで親が子どもを同伴できないレストランはたくさんあります。
言い換えれば、大人用のレストランでは、静かにゆっくりくつろいで食事ができることが保証されているということです。日本でも高級なレストラン、懐石料理の店などに赤ちゃんや幼児を連れて行くことはないでしょうが、イギリスほど明確に大人向け、子供向けのレストランが区別されていないため、食事中に隣の子どもが泣き始めたり騒ぎ始めたりして、せっかくの料理を楽しめないという経験が皆さんにもあるのではないでしょうか。
大人だけの領域が認められている反面、大人には子どもの領域、子どもの安全を守る義務があります。イギリスでは子どもが11歳になるまで常に大人が同伴していなければなりません。赤ちゃんが寝ているからといって、1人家に残して、その間に親が近くのスーパーに買い物にでかけるようなことは許されません。日本のデパートのおもちゃ売り場に子どもを残し、子どもがおもちゃを見て回っている間に買い物を済ます親がいるようですが、これもイギリスでは認められません。警察に捕まり、処罰されます。
イギリスはヨーロッパの中では比較的安全な国ですが、日本よりはるかに子どもを狙った犯罪が多く、親は子どもを常に護らなければなりません。その代わり、時には親という役割から開放され、大人としての時間を楽しむことも社会的に認められているのです。
小森由里