私は1991年にロンドンで男児を出産し、息子が5歳までロンドンに住んでいました。今回から私自身の経験に基づいてイギリスでの出産、子育て、教育を紹介したいと思います。今から十数年前のことになりますが、まずは出産についてご紹介しましょう。
出産前の検診はロンドンの日本クラブ診療所に通っていました。ロンドンには、日本人の患者を対象として日本人医師のいる病院が数件ありますが、日本クラブ診療所はその1つです。ロンドンの北にある北診療所と南にある南診療所と2つありますが、当時はゴールダーズ・グリーンという所にある日本クラブ北診療所(今はもっとロンドンの中心地に移転しています)で定期的に検診を受けていました。
出産は、私立の病院でも公立の病院でも可能ですが、私は私立のガーデン・ホスピタルで出産しました。私立と公立の大きな違いは、なんといっても出産費用です。私立病院は有料で当時もかなりの値段でしたが、公立病院は無料です。イギリスは福祉が行き届いていると言われますが、医療に関しては、National Health Service(略してNHS)というサービスがあり、このNHSを使えば、患者の年齢や収入に関わらず、治療費は全くかかりません。公立病院はNHSですので全くお金がかからないのです。
費用に比例して、当然のことながら病院で受けられるサービスにも私立と公立では違いがみられます。私立では入院料を払えば患者が希望するだけ長く入院できますが、公立ではたいてい出産の翌日か翌々日には退院しなければなりません。また、私立病院ではシャワールームやテレビ付きの広い個室で、食事も毎回メニューが渡され、好きな物を注文し部屋まで運んでもらえますが、公立では数名で1室をシェアーし、食事は各自が食堂でとるといった形式です。
1991年当時、私立の病院では無痛分娩が実施されることもありましたが、私が出産した病院では、無痛分娩は奨励されておらず、その代わり水中出産を経験しました。分娩室はとても広く、部屋の隅に丸く大きなプールがおかれていました。陣痛を我慢する間水中に居ると、その痛みが軽減されるのだと看護士が説明してくれました。最終的に私はベッドに横になって出産しましたが、希望すればプールの中でも出産できるそうです。
イギリスでは、私立でも公立の病院でも、出産は夫婦の共同作業と見なされ、夫も出産に立ち会うのが一般的です。私の場合も、夫が10時間近くプールの横で付き添ってくれ、子どものへその緒も夫がカットしました。
小森由里