今回は、学校内での、特に学生から先生に対する呼び方について取り上げてみましょう。日本語では、「田中先生」「山田先生」のように、先生を呼ぶ場合には、「姓+先生」という形式をとりますね。そのため、これを逐語訳して「スミス先生」を “Smith Teacher” と呼ぶことができるか、というとそれはあり得ません。ご存知のように、「先生」は英語で “teacher”ですが、呼称の場合に “last name + teacher” という形式が使われることはないのです。
一般的には、日本語では「先生」という意味合いでも、 “Mr.” “Mrs.” “Miss” といった敬称が使われます。従って、男性の「スミス先生」では “Mr. Smith”、既婚女性の「スミス先生」では“Mrs. Smith”、未婚女性の「スミス先生」では “Miss Smith”となるわけです。ただし、大学では「先生」の呼び方にもバリエーションがあります。日本語では、先生が教授であっても助教授であっても講師であっても「田中先生」と呼びますが、英語では、先生の地位を明確に呼称に反映させます。大学教授は “Professor Smith”、講師であっても博士の学位をもっている先生に対しては “Dr. Smith”と呼びます。また教授でもなく博士の学位のない大学の男の先生は “Mr. Smith” です。日本には大勢の大学教授がいますが、イギリスの教授は日本よりはるかに少数です。つまり“Professor”の称号をもつ人は稀であるということになります。そのため博士号をもつ大学教授に対しては、教授の称号を優先して “Dr. ~”ではなく“Professor〜”と呼ぶようです。
また日本語では、名前を使わずただ単に「先生」と呼ぶこともありますね。英語でも同じ様な呼称があります。学校によってもさまざまなようですが、息子が通っていたインターナショナル・スクールでは、男の先生は “Sir”、女の先生は “Miss”と呼んでいました。女の先生に対しては、既婚であっても “Mrs.” ではなく“Miss”と呼ぶのです。はっきりとした理由はわかりませんが、かつて女性教師はほとんどが未婚だったためではないか、という話をきいたことがあります。また、イギリス王室の二人の王子がかつて通っていたイートンというパブリック・スクールで教師をしていた友人によると、イートン校では、女の先生は “Madam”の略の “Ma’am”と呼ぶそうです。
このように、学校によっていろいろな呼称がありますが、「〜先生」の意味で “〜teacher”と呼ぶことはできない、ということを覚えておくとよいでしょう。英語の複雑な文法知識は身につけていても、このような日常生活に密着した英語の誤りが意外と多いものです。
小森由里