前回「人の呼び方@」では、 英語圏においては、‘Mr./ Mrs./Ms./Miss + last name(姓)’よりも ‘first name’だけの「名前呼び捨て」で相手を呼ぶことが多いということに触れました。これは、知人や友人を対象とするだけではなく、ビジネスの場面でも同様です。英語の映画やドラマで、上司に対して ‘Mr. Brown’ というような ‘Mr.’の敬称をつけた呼び方ではなく、‘John’と名前で呼んでいるような場面を見たことはありませんか。同僚は勿論、上司に対しても、またクライアントに対しても「名前」を呼び捨てにすることがあります。
ただし、誰でも構わず「名前呼び捨て」をして良いわけではありません。それぞれの仕事場で慣習があることでしょうから、それを見極めることが大切です。同僚に対しては「名前呼び捨て」が一般的ですが、上司に対しては、同じセクションの上司であれば「名前呼び捨て」も可能でしょうが、会社の上層部、重役クラスの上司に対して同様に名前だけで呼んでいいかどうかは疑問です。たいていは、初対面のときに上司のほうから、
‘Please call me John.’ (「僕をジョンと呼んでください。」)
というように呼び方を指定されることがあります。そうすれば、これに従えばよいわけです。
私が通っていたロンドン大学の大学院でも同じような経験をしました。私の指導教官は言語学の博士号をもっている先生だったので、初対面のとき敬意を表し、
“Hello, Dr. Allford.”
と、「博士」を表す敬称の “Dr.” に先生の姓を加えて呼びかけたところ、先生はにっこり笑って、
“Please call me Douglas. I’ll call you Yuri. OK?”
とお答えになりました。大学院の先生に対して「名前」を呼び捨てにするというのは実際とても抵抗がありましたが、それ以降互いに名前で呼び合うようになりました。
日本でも、地位に関わらず互いを「〜さん」で呼び合う会社もあるものの、同僚ならまだしも、上司の名前を呼び捨てにすることには抵抗を感じる人が多いのではないかと思いますが、「郷に入れば郷に従え」です。ただ、呼び方を決めるのは、立場の下の者ではなく、上の者であるということを理解しておくことは大切です。
小森由里