「社会階級【3】」では、イギリス社会の中流階級と労働者階級の違いを、職業という観点から捉えましたが、職業だけではなく、生活様式一般にもこれら2つの社会階級差がみられます。今回は住居を例にあげてみましょう。
まず、中流階級と労働者階級では、住む地域が違います。 ‘East End’ という英語がありますが、これは文字通りにはロンドンの「東の端」を表し、労働者階級の人々が多く暮らす地域を指します。従って‘East End’に‘-er’が付く‘East Ender’とは、ロンドンの東部地区の住人、つまり労働者階級の人々を意味します。一方、私がかつて住んでいたロンドン北西部は、富裕層が多く住む住宅地ですが、その中でもHampsteadは文化人が多い高級住宅地域です。かつては夏目漱石も留学中の一時期をここで過ごしたことがあります。East Endとは対照的に、Hampsteadなどは上層中流の人々が暮らす地域の1つです。
また、転居という点からも2つの階層は異なっています。中流階級は相対的に引越しが多いのに対し、労働者階級はあまり転居をしません。中流階級は、結婚すると新婚のカップルが住むのに適した広さの家やフラット(日本語のマンションと同義)を購入します。その後子どもが産まれ家族が増えると、庭のある家に引っ越します。子どもが大きくなり部屋数が必要になるとまた引っ越すこともあります。私の友人の中で、8年間の間に5回も転居した中流階級の夫婦がいます。中流階級では家族数の変動、家族の状況に応じて、家を転売しながら引越しを続けるのです。これに対して、労働者階級は転居することはあまりないようです。
このように、労働者階級と中流階級とでは、慣習的にそれぞれ住む地域が決まっており、また転居の回数にもその違いが認められます。転居数の違いから、中流階級は住んでいる地域の人々と深く関わることが少なく、逆に労働者階級は近隣の人々との交流が深く、緊密な人間関係を築いているという差も生じることがあります。
小森由里