あなたは日本社会の中の上流階級、中流階級、下流階級のどれに属していますか?」と尋ねられたら、何と答えるでしょう。前回はイギリス英語の「社会方言」に触れましたが、今回は「社会方言」と深い関係のある「社会階級」という考え方を紹介します。
「社会階級」というのは、社会の中にあるいくつかのグループの上下関係による序列を指すことばです。社会学者の間でも、「社会階級」の定義をめぐっては議論があるようですが、言語と社会との関係を研究する社会言語学の分野でも、階級の数や構造、その境界も恣意的です。言語データを話し手の「社会階級」という属性から分析したLabovというアメリカの言語学者がいます。Labovは、ニューヨーク市の社会階級を、<教育・職業・収入>の3つの尺度から<下層・労働者層・中流下層・中流上層>の4つに分けています。一方、イギリスの言語学者Trudgillは、ノーリッジという町における研究で、<職業・収入・教育・住居形態・地域・父親の職業>の6つの尺度によって<労働者下層・労働者中層・労働者上層・中流下層・中流中層>の5つの社会階級を示しています。
アメリカとイギリスという同じ英語圏の社会であっても、二人の言語学者の例にみられるように、階級の数もそれを区分する指標も違っています。2つの例を比較すると、イギリスのほうが階級の尺度の数が多く、その構造も複雑です。階級を区分する尺度でも、イギリスでは<父親の職業>があげられていることから、アメリカよりは社会的階級には世襲の要素が強いのではないかと考えられます。つまり、アメリカでは親が労働者階級であっても、子どもが中流階級になることもありますが、イギリスでは階級間の流動性は低く、親が労働者階級の場合、その子どもも同じように労働者階級に属することが多いということです。
「社会階級」というのは、一見すると単純なもののように思えますが、実は幅の広いカテゴリーで捉えどころがない概念ともいえます。さて、日本社会の場合はどうでしょうか。最近ではかつての「一億総中流」意識が薄れ、さまざまな社会階級が生まれてきているのではないでしょうか。
小森由里