80年代後半から90年代にかけてロンドンに住んでいた頃、ロンドン大学で日本語を教えていたことがあります。日本語の初級のクラスで、イギリス生まれ、イギリス育ちだと思っていた学生に、肯定の答えが返ってくることを期待して、「イギリス人ですか?」という質問をしたところ、「いいえ」と否定されました。どうして?と思っていると「わたしはスコットランド人です。」というのです。それまでスコットランドもイギリスの一部だと思っていた私は、学生の答えに戸惑ってしまいました。
私たちが一般に「イギリス」と称する国の正式名称は「グレート・ブリトンおよび北アイルランド連合王国United Kingdom of Great Britain & Northern Ireland」です。アメリカ合衆国の略 “USA”と対照して “UK”を私たちが呼ぶ「イギリス」の略とご存知の方も多いと思います。つまり、俗に言う「イギリス」は、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド、イングランドの4つの地方から成る連合王国(United Kingdom)なのです。中学校で “England”を「イギリス」と習い、あの島全体を「イギリス」だと思っている方も多いのではないかと思いますが、Englandは連合王国の一部なのです。
スコットランドはブリトン島の北部、ウェールズは島の南西部、イングランドはスコットランドとウェールズを除いた島の中南部、北アイルランドは他の3つの地方とはアイリッシュ海を隔てたアイルランドの北部です。これら4つを合わせて1つの国なのですが、それぞれ地方の独立性も感じられます。地理的に違うだけではなく、ことばの面でも違いが見られます。次回は、4つの地方の言語をみていきましょう。
小森由里